2014年9月23日火曜日

浅川マキ「赤い橋」を聴きながら

浅川マキという人は学生時代の70年代後半にはすでに伝説の歌姫だった。「ちっちゃな頃から」、「夜が明けたら」など自作の歌が良い。寺山修司はこの人が歌った「かもめ」、「不幸せという名の猫」などの名曲を作詞している。これらの曲を覚えているのはテープに録音してもらった「浅川マキの世界」を繰り返し聴いていたからだ。会社員になってしばらくした頃に池袋文芸坐ル・ピリエの大晦日定例コンサートを聴きに行った。1980年代の始めだ。この人の「赤い橋」(北山修作詞、山木幸三郎作曲)という歌はとても奇妙なイントロで始まる。「わたし地球で一番不幸せな者になっているわ。そうすれば私のことわかるでしょ」から始まり、「しるしをちょうだい。あなたをどうやって探し出したらいいか教えて」、「いつまでも君を愛するよ」、「わたしたちもう会えないのよ」と続く。この歌のイントロの少女の声を久しぶりにYTで聴いた時に「しるしをちょうだい」という言葉が耳に残った。

「しるし」という奇妙な言葉で連想するものがあった。ヘッセの「デミアン」(高橋健二訳)だ。新潮文庫版で幾度も読み返したので、鉛筆とペンの横線が入っている。「カインのしるし」、「鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは、一つの世界を破壊しなければならない。」、「その夢を生き、それを遊び、それに祭壇を立てたまえ」。とても気になる本だった。第一章の「二つの世界」では幼年期の世界と現実の世界とが対比され、第二章の「カイン」では「しるしを持つもの」を探し求める人たちのことが描かれている。「デミアン」で扱われている様々な主題は「赤い橋」という歌が想起させるものと似ている。表現方法は様々だが、先人たちの指し示してくれたものには通底するものがある。

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