2016年1月9日土曜日

新潟の冬の味「のっぺ汁」 トトマメからの連想

郷里の新潟には冬の名物に「のっぺ汁」がある。サトイモ、かまぼこ、ぎんなん,ニンジンといろいろ入るが鮭の卵を飾りに入れると白い豆みたいに固まる。赤い目玉が見えて紅白の彩りが正月にふさわしい。ぷちぷち食感を楽しむ。今ではこれをイクラと呼ぶ人が多いが、昔は「トトマメ」と呼んでいた。トトは魚のことだが、マメというと植物のように聞こえる。その逆に植物が魚卵のように聞こえるのが 「トンブリ」 だ。「唐のぶりこ」というのは、最新の文化が中国大陸から伝わってきた時代の表現で「ハイカラな魚卵」という意味だろうが、これは草の実だ。和製キャビアと言われ有名だが、まだ食べたことがなくて残念だ。魚卵と植物の間で言い替えは面白いと昔から思っていたが、これは日本だけの話でもない。中央アジアに駐在した時にそれがシルクロードの国々でも起きていることに気がついた。

魚卵の味を楽しむのはユーラシアの東西に共通だ。日本には筋子、タラコ、カラスミを好きな人が多い。ロシアでは赤いのも、黒いのもイクラと呼ばれる。中央アジアでもコーカサスでも魚卵をつまみに酒を飲む。フィッシュ&チップスにして白身魚のフライをよく食べるロンドンでも魚屋さんで大きなタラコが買える。煮て食べると美味しい。ウズベキスタンやロシアで「イクラ」というものを食べた。秋になるとナスとかペッパーとかいろいろな野菜を刻んで調理しペーストの類を作る。パンにのせる食べ方が魚卵であるキャビア 「のようなもの」 だ。同じようなスプレッドがバルカン半島にもある。マケドニアの食卓には前菜として「アイヴァ」というペッパーを使った辛みのあるオレンジ色のスプレッドがよく出てくる。どちらも秋の風物詩で大量に作って小瓶に詰める。知人に配ったり、味を競いあったり、名人がいたりする。タシケントでもスコピエでも楽しみだった。地球規模での流通システムも保存技術もない時代に長く厳しい冬に備える大切な食べ物だったのだろう。

シルク・ロードという交易路を通ってユーラシア大陸の東西に伝わったのは絹織物だけではない。生活に密着した様々な物が遠く離れた地域に伝播し、変化し、発展して行った。炊いたお米の料理は東西で愛されている。日本の釜めしも、中央アジアのプロフも、イタリアのピラフも、スペインのパエリャもどれも美味しい。こねて伸ばした小麦粉の味もあちこちで愛されている。日本のうどんもラーメンも、中国の刀削麺も担担麺も、中央アジアのラグマンも、イタリアのスパゲティもどこかつながりを感じる。

0 件のコメント:

コメントを投稿