2015年5月6日水曜日

AIIBについてみんなでもっと議論すべきだ

昨年から様々な報道がなされていたにも関わらず、ほとんど関心を持たれることのなかった中国主導の新国際機関AIIBだが、今年の3月に、英国がG7メンバーとしては早々に米国との協調路線を放棄して参加を表明し、主要な欧州ドナー国が追随してからは、いっせいにマスコミで報道されるようになった。日本のメディアでも中国寄りのコメント、模様眺めの政府寄りのコメントと真っ向から別れた議論がにぎやかだ。このテーマについて「新たな中国の時代の到来か」という視点から議論する論評がほとんどだが、長く「特別な関係」にあった英米の関係が変わりつつあることがAIIBをめぐる議論の趨勢に影響を与えたことも注目されるべきだろう。ロンドン在住のジャーナリスト木村太郎氏が、そういう米英関係の変化は中国のAIIB設立提案以前から始まっていたことを指摘している。

428日の日米首脳会談の後の声明で、オバマ大統領は 「boondoggle」 という言葉を使ってAIIBについて米国が慎重な姿勢をとっている理由を説明している。これは「無駄な仕事、無用の公共事業」の意味だ。公の資金を扱う組織のガバナンスと、その意思決定の透明性の確保についてのきちんとしたルールなしには、公金が無駄使いされるリスクは高い。明快な説明だ。この組織が適切に運営されれば地域のインフラ需要を満たすためにプラスだとポジティブな評価もしている。看板に掲げたうたい文句とは別に「一部の国の指導者や受注先を潤すだけで、現地の人々に恩恵が及ばない開発援助」のリスクが存在し、きちんと取り組む必要があるということは、これまでもNGOなどが厳しく指摘してきたODAのあり方に関わる重要な論点だ。

わたしはAIIBへの日本の参加問題については「焦ることなく様子を見てから決めても良いのでは」と考えているが、それには理由がある。数年前にロシア主導で「ユーラシア開発銀行」という新国際機関が同じくユーラシア地域のインフラ開発ニーズに応え、既存の諸機関を補完するものとして設立された時にG7諸国は結束して模様眺めを行った記憶が新しいことだ。税金の使い途の問題でもあるので、慎重論を唱えることには意味がある。フェースブック上のミニ勉強会でも、このテーマを仲間たちと議論してきた。わたしが指摘したいのは、以下の点だ。

  • 大きく4つの立場がある。「心情的に中国支持でAIIB賛成」。「心情的に米国支持でAIIB反対」。「インフラ契約受注を期待してAIIB賛成」。「適切な開発援助の視点から条件付きでAIIB反対」。誰がどういう立場から発言しているかを冷静に眺める必要がある。
  • 背景として3つの大きな流れがある。第1に無視しえない大国としての中国の台頭。第2に国際開発に必要な追加的な資金をどう手当てしていくかの議論。第3に第二次大戦後に東西冷戦下でつくられた開発援助の現行スキームが、戦後70年を経て見直しの時期を迎えていること。その方向性の議論。この3点について大枠の議論がなされるべきで、AIIBへの参加問題だけが切り離されるべきではない。
  • 中国が「売り言葉に買い言葉」の気味があるにしても「西側ルールが正しいとは限らない」と発言してきた点について、詳細な検証が必要だ。「西側ルール」と「世界標準ルール」を混同しての議論を避ける必要がある。「汚職を防ぐための国際競争入札ルール」、「環境に配慮するためのルール」、「市民社会を含めた参加と透明な意思決定のルール」は東西に関わらずミニマムルールであるべきだ。
  • 「AIIBの必要性は認めるが、その運営方法に懸念を持つ」という立場を日本が取る場合には、AIIBをめぐる議論で浮上してきた論点を踏まえながら、それを今後のADBの改革に反映させる方向での議論を日本がリードするという覚悟を持つべきだ。

最近まで働いていた組織で、現役で活躍している知人と会った時に面白い話を聞いた。一つはわたしの所属した組織のOBでオペレーション審査や調達の専門家たちが、この設立準備中の組織に乞われて様々なアドバイスを行っていること。もう一つは欧州勢で先陣を切ってこの新組織の応援に回った某国(!)が自国の開発機関の専門家たちに参加を呼び掛けているという噂だ。この知人とは長い付き合いだが、数年前にパスポートをこの国に切り替えているので、この人も勧奨の対象になったらしい。同種の組織がロシア主導でカザクスタンの首都アルマーティに設立された時には、わたしの駐在していた国の現地事務所も含めて若手スタッフに声がかかったことを記憶している。それに比べると今度の新組織の準備の仕方には格段に力が入っていることになる。だとすれば良いニュースだ。

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