2015年7月17日金曜日

ナナカマドの記憶 ロンドンの住宅事情

ナナカマドはロンドンの秋の風物詩だ。1993年にロンドンに赴任して地下鉄ハイストリート・ケンジントン駅近くのフラットに住んだ。窓から見えるアルメニア教会の風景がとても印象的だった。このフラットの壁紙のナナカマドがとてもしゃれていて、ロンドンの新生活の記念のように感じたものだ。ロンドンの生活が3年を過ぎた頃にチャーチ・ストリートに近いフラットを買った。この時にはナナカマドの柄のカーテンを選んでいる。わが家にとってナナカマドはロンドンを象徴するものになった。

ナナカマドは英語でローワン・ツリー(Rowan Tree)、ロシア語ではライビーナと呼ばれる。ナナカマドの実が多い年は厳しい冬になるという言い伝えがあるくらいだから、その年ごとに実のつき方が変わる性質をもっているらしい。日本でも東北地方などで七竈の木はよく知られている。面白いことに気が付いた。日本では七竈がご本家で、外国のナナカマドのことを西洋ナナカマドと呼ぶ。英国ではローワン・ツリーがご本家で、日本の七竈のことをJapanese Rowan Treeと呼ぶ。どちらが本家やら。最近、園芸に情熱を燃やしているTさんからクレマチスと鉄線の違いについて教えてもらったことを思い出した。地球上の様々な地域で共通するようにみえるものについて微妙なこだわりを持っている専門家の声を聴くのは楽しい。

この木が日本で七竃(ナナカマド)と呼ばれるのは、木がとても固くて竃に7度くべても燃え残るからという説がある。燃えにくいところから防火のおまじないにもなっているそうだ。一方で、北欧では水難のおまじないにも使われる。なにやら謎めいている木だ。冬になってナナカマドの実が残って雪をかぶっている写真も美しい。冬を迎える鳥たちには大切なえさになる。花言葉が「用心、賢明」なのはそういうことと関わりがありそうだ。

2011年の暮れに2度目のロンドン赴任となり、ケンジントンのさらに西にあるチズイックに住むようになった。緑が多くてテムズ川が近いのでとても気に入ってしまった。1年ほど借家に住んだ後で、フラットを買った。ターナム・グリーンの教会のすぐ側にある。どうも教会の近くに住むめぐり合わせらしい。いつまでそこに住むことになるかはわからなかったが、ロンドンは家賃がとても高いので、3年程度住む予定が立つならば、持ち家に住んだほうが圧倒的に有利だ。持ち家ならば家賃は払わなくて済むし、数年後に売ることになっても市場での価格がインフレ率を上回る可能性が高い。

新しくフラットに引っ越したのは2013年が明けてからだった。秋になって同じ敷地の中にオレンジのナナカマドがきれいに実をつけた時は感激した。90年代にケンジントンに住んだ頃を思い出したからだ。この年は、夏の暑さを反映して、オレンジ色の実がたわわについていたが、次の年は今一つだった。のまま冬枯れの季節となってがっかりした。夏の初めに雨の日が多いと日照時間が足りなくなるので、影響を受けるようだ。

2015年の秋にはロンドンを離れることになった。もう一度見事なオレンジの実が見たいものだと思っている。しばらく前にそういうことをFBで書いたら、早速ナナカマドの実が少しだけ色ついてきた。人間の気持ちが理解できるのだろうか?やはりこの木は謎めいている。









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