2015年7月13日月曜日

ボストン美術館のキモノ試着イベント中止の報道について

7月始めにボストン美術館で「睡蓮の画家」として名高い印象派のクロード・モネの作品「ラ・ジャポネーズ」の絵の前で、日本の着物を試着するイベントがあったところ、抗議する人たちがいて、着物の試着は中止になったという報道があった。関連した記事を幾つか読んで気の付いたのは 「日本の着物を試着するイベントが中止」 というぶっきらぼうな見出しの記事が目立ったことだ。こういう見出しを読んだ人の多くは「米国東部の名門美術館で日本文化の宣伝をすることについて抗議があったようだ」という印象を受けたようだ。FBでこのタイプのコメントを散見した。この尻切れトンボのような見出しだと、あたかもボストンの人たちが日本が嫌いで、その文化紹介のイベントが妨害されたかのように誤解するのも自然だ。

幾つか詳しい記事が出ていたので、読んでみるとこのイベントに反対したのはアジア系の米国人のグループらしい。有名な画家の絵の前で、同じような着物を試してみましょうというイベントだから、目くじらを立てるほどのことでもなさそうだが、反対した人たちはそもそも1870年代に 「オリエンタリズム」 という形で東洋の文化が、ヨーロッパの人たちに面白おかしく扱われことが気に入らないらしい。そうなるとその絵を描いたクロード・モネの東洋趣味そのものが批判されていることになりそうだ。しかし、この辺りを上記の短い見出しで想像するのはほとんど不可能だ。

クロード・モネの「ラ・ジャポネーズ」という絵を見てみると、抗議している人たちの気持ちがわかり易くなる。中世の王様が着るような厚手のガウン状の内掛けに、派手な浮世絵風の模様が描かれている。「日本めいて」 はいるのだが、日本の代表的な着物とは言い難い形と柄だ。この絵を見て連想したのはオペラ 「マダム・バタフライ」 のことだ。ウィーンで勤務していた頃に何度か見ているが、その度に武士の娘である誇り高く、貞節な蝶々さんの着物が妙にひらひらしていて、だらしない着付けになっていると感じたことを思い出した。絵を描いた画家も、オペラの衣装のデザイナーも悪気はないのだろうが 「東洋趣味」 が盛んだった19世紀末のヨーロッパで日本の着物に興味を持った人にとっては、その程度の興味と知識で十分だったわけだ。

今回、ボストンで抗議行動を行ったアジア系の人たちは、欧米人がユーラシアの東にある地域を、中国も東南アジアも韓国も日本も十把ひとからげにする態度に抗議していることになる。きちんとそれぞれの地域の文化を紹介しないで、国籍不明の「東洋」の文化を紹介されるのは迷惑だし、馬鹿にされた気がするという趣旨だ。この抗議を行ったグループはこの着物試着イベントを 「文化的に無神経で人種差別だ」 と形容している。

しばらく前に 「東洋人て誰のこと」 という題で、同趣旨のノートを書いたことがあるので、抗議している人たちの気持ちは理解できるつもりだ。その一方で、自分も 「西洋人」 とか 「欧米人」 という言葉を時々使っていることに気がついてヒヤリとした。気をつけよう。十把ひとからげにされて面白くないのは、西でも東でも共通の感情のはずだから。

http://kariyadagawa.blogspot.co.uk/2014/10/blog-post_93.html

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