2015年7月31日金曜日

ジーザス・クライストの眠る湖 小川未明の「牛女」と共通するもの

フランスのアルプスに近いサボイ州にあるブルジェ湖に遊びに行ってきた。友だちの50歳の誕生日を祝う集まりだった。ブルジェ湖の景色を朝、昼、晩と眺めながらすごした。ブラジル生まれでフランス育ちのラズ君が山の方向を指さして、あそこにジーザスが眠っていると教えてくれた。なるほど凝視しているとそういう風に見えてくる。新潟県の妙高辺りの物語「牛女」を思い出した。岩山や雲は見ようによっては何にでも見えることがある。それは岩の問題でもなく、雲の問題でもない。自分の心にあるものを投影しようとする自分自身の心の現われだ。

ラズ君はとても親切できめ細かな心くばりの持ち主だ。お父さんを早くに失くしてしまっている。お母さんはピアノを教える先生だった。父のないわが子の成長を願ってパリの寄宿学校に入れた。お母さんとしては弁護士のような専門職についてほしかったそうだ。ところがラズ君は学校の先生とうまが合わずに勉強に興味を失くしていく。さらにまずいことにパリという異国の街での生活に困らないようにと、お母さんがまとまったお金を送ってくれたので遊ぶ資金には困らず、仲間を集めては豪遊もしたらしい。

やがてパリに様子を見に来て息子の放蕩を知ったお母さんは数か月ほど口をきいてもくれなかったそうだ。ラズ君は自分が大好きな母の期待に応えることができなかったことを思うたびに切ない気持ちになるようだ。ブルジェ湖の岩山に「ジーザスの寝姿が見える」と彼が言う時に、彼の心に浮かんでいるのは故郷リオ・デ・ジャネイロの港に佇むジーザス像であるような気がする。そこはお父さんを亡くしてから母子だけで心細く暮らしていた故郷の町だ。彼が思い出すのはその頃の自分と母の姿かも知れない。

新潟県上越地方の出身の作家、小川未明がやはり母を失くした子供と山肌に映る母の面影にまつわる童話「牛女」を書いている。世の中は広くていろんな人がいる。それでもどこかで共通するものを感じるのは面白い。この童話については依然にブログに書いている。

http://kariyadagawa.blogspot.co.uk/2014/09/blog-post_84.html





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