2015年8月20日木曜日

ビシュケクの料理店 青瓦台の記憶

1986年に初めて飛行機に乗って以来、通算27年を海外で過ごした。この間に旅したり、住んだりした国の記憶はその土地で食べたものの記憶と深く関わっている。いくつかの国の食卓についてノートを書いたが2007年の末から3年半暮らしたルギス共和国の料理については、中央アジア風の名物料理よりも、朝鮮半島料理の印象が強い。韓国のビジネスマンが退職してレストランを開いた店もあれば、スターリンの時代に満州から移住させられた朝鮮の人々の家族が開いた店もあっていろいろだった。焼肉と付け合せの様々な野菜料理にしろ、石焼ビビンバなど定番料理はもちろん美味しいが、それ以外にも印象に残ったものがある。

ビシュケクもタシケントも朝鮮半島出身の人がたくさんいるのでコリアン料理の激戦区だ。競争を勝ち抜いている店は美味しいくてサービスも良い。ビシュケクの青い看板が目印のチョンギバという店によく通った。漢字で書くと青瓦台となるそうだ。マスターが良い人でビシュケクの郊外にあるメープル・ツリーのゴルフ場で会うと、いつもにこやかにあいさつしてくれた。彼はわたしが一人でもチョンギバにランチに通い、夕方はお客さんとの会食とかスタッフと飲み会にも、この店を使ったので喜んでくれていた。この店のサバのコチジャン煮が絶品だった。アジア食品のスーパーもたくさんあるので冷凍のサバは簡単に手に入る。熱々ヒタヒタの辛みそスープにサバの切り身とよく煮えた大根がたっぷりだった。辛みそスープを白いご飯にかけるとたまらない。熱々でやけどしそうになるのでよく冷えたビールは欠かせない。.ポイントは唐辛子味噌の使い方だ。癖になる味だ。

この店に限らないが、メニューにはなくて、韓国の友人たちと会食した時だけ出てくる食べ物があった。茶碗蒸しのようでもある。ケランチムという名前だった。タシケント以来の長いつきあいで、ビシュケクで再会したKYと一緒だったりすると必ず出てきた。一人分用の小さな鉄釜に入って膨らんでいるのを、熱々の内にスプーンで食べる。火傷しないように少しずつ食べる。茶碗蒸しというよりもスフレに近い。ケランは鶏卵のことでチムは蒸したものの意味だと教えてもらった。具は入っていない。シンプルで優しい味がなんとも言えない。ビシュケクを離れる頃には、頼まなくても時々出てきた。常連として認められたようで嬉しかった。もう一つある。インスタントラーメンと魚肉ソーセージが入っているチゲ(鍋料理)の一種だ。ブデチゲという名前で、漢字で書くと部隊チゲとなる。食べたくて夢にみるという味ではないが、妙に懐かしい味だった。

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