2015年8月3日月曜日

言葉のニュアンス 「移民の群れ」 ”a swarm of migrants"

カレーはドーバー海峡のフランス側の港街だ。この街はロダンの彫刻「カレーの市民」でも良く知られている。世界各地に置かれているこの鋳造作品は上野の国立西洋美術館の前庭でも観ることができる。ユーロスターでロンドンからパリまで鉄道で移動する時には海峡トンネルをくぐって行く。英国はその意味では欧州大陸に地続きだ。アフリカ大陸からの難民が欧州をめざして危険な船旅のリスクを犯し、時には難破してしまう悲劇が時折り報じられているが、海峡トンネルの場合には鉄道の柵を突破してしまえば、少なくとも溺れて命を失う危険はない。この街に留まって様々な方法でトンネルを移動するトラックや鉄道に乗り込もうとする難民についてのニュースが報じられている。タイムズ紙によれば国連高官の談話として、カレーに留まっている難民の数は5千人から1万人とされ、正確な数は把握されていない。難民なのか、海水浴客なのか、野次馬なのかの区別が難しいということのようだ。

7月30日の英紙タイムズによれば、前夜に海峡トンネルのフランス側で警察の静止を無視して数百人の難民が、柵にできた穴から侵入を試みた。ITVとのインタビューに答えたヴェトナム訪問中のキャメロン首相は 「地中海の向こう側から、より良い生活を求める移民の群れが、英国経済が好調なこと、仕事があること、生活水準が高いことから英国に来ようとしている。我われは隣人であるフランスと協調しながら英国の国境を防衛する必要がある。」 と述べた。

このインタビューでキャメロン首相が「群れ(swarm)」という言葉を使ったことがメディアで話題になった。辞書を引いてみると「swarm」というのは動物などの「群れ」を示す言葉だ。名門の出身の英国リーダーの「人を人とも思わない態度」を反映した言葉であり、怪しからんという議論だ。さっそく英労働党の次期リーダーと目されている人がこの発言を取り上げて、キャメロン首相を批判した。ラジオ4のインタビューで「あなたは群れをいう言葉を使いますか?」とマイクを向けられた英独立党の党首ファラージ氏は即座に否定した。ところがそのファラージ氏も最近のITVのインタビューで同じ言葉を使っていたことが報じられた。何でも記録されているIT時代というのは大変だ。英ハフィントンポストによれば、「Bullingdon Boysが犬をけしかけなければ良いのだが」というコメントを書いた人もいる。The Bullingdon Clubはオックスフォード大出身者のクラブの名前だ。キャメロン首相は最近、キツネ狩りなどに使われる猟犬の保有規制の緩和についてメディアで批判されたばかりなので、辛辣なコメントだ。

米国人の知り合いと食事をする機会があったので、「ネイティブスピーカーとして「swarm」という言葉は、それほど許し難いものですか?」 と質問してみた。彼女いわく 「それはミツバチの群れなどに使う言葉だから、やはり人間集団について使うのは良い感じがしない」との説明だった。英首相としては国内向けに国境防衛について毅然とした態度で臨むことを強調したかったのだろうが、勇み足ということのようだ。








0 件のコメント:

コメントを投稿