ロンドンは4月の末に夏時間に変わったあと、日ましに日が長くなっている。。このひと月ほどで日没時間は午後8時少し前から、9時前に変わった。陽が落ちた後も、雲がなければ夕陽が天空のあちこちに反射して9時半を過ぎても明るい季節になった。英文学者の吉田健一の書いた「英国に就て」というとても面白い英国案内を読んだ。32編の随筆が収められているので興味のある部分だけ拾い読みするつもりでいたが、面白いので全部読んでしまった。「英国の四季」というエッセイが面白い。
英国の冬がいつ終わり、いつ春がくるのかを考えるのは面白い。3月の初めに紅色の木瓜の花が咲く。。追いかけるように葉がないままのモクレンの裸の木に、白や薄紫の花がぽっかりと咲き始める。しばらくして背の高いモクレンの木が花で覆われると、春めいた感じはするが、まだ寒い日がほとんどだ。やがて山桜の薄桃色やアーモンドの白い花が咲き始めると4月になる。この頃は数日晴れたかと思うと、数日雨が続きとても不安定だ。吉田氏はこの四月の微妙さをT.S. エリオットを引用して説明している。「四月になれば英国でももう冬とは思えない日が多くなるが、それでもエリオットは例の「荒地」で、四月は残酷な月だとこぼしている。冬でもないし、はっきり春でもないからという意味らしくて、まず英国の四月はそんな感じがするものである。」 この人は英国の春がとても短いことについて、「英国では春が来ると、すぐに夏、或いは少なくとも、英国の夏になる。確実に春になるのが五月で、五月から英国では夏の最中になっている六月まではすぐである。」と書いた。言い得て妙だ。
5月の半ばに初夏の訪れを感じさせるように咲いたのが、玄関先のフクシアだ。今のフラットに越して来て以来、とても気に入って写真を撮り続けている。夏の始めから秋の終わりまで花の時期は長い。この花は日本でもフクシアと呼ばれる。ドイツ人の医者であり植物学者であったフクシア先生の名前にちなんでいるそうだ。英語圏ではヒューシャという発音になるが、日本での名前は欧州の大陸で使われているものと同じだ。この花は何とも言えず美しく気品がある。昔からアンデス地方に咲いていたので、古代インカでは「女王の首飾り」と呼ばれたそうだ。赤と青、赤と紫、赤とピンク、白と赤、白と紫など様々な組み合わせがあるがどれも色鮮やかで美しい。英国の夏を飾る花だ。
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