乱歩賞作家で竹吉優輔という人の書いた「レミングスの夏」という本を読む機会があった。この題名を眺めている内に昔のことを思い出した。わたしが最初に勤めた会社は今は大変なことになっている。会社というものが30年くらいのサイクルで浮き沈みするということは知っていたつもりだった。郷里である新潟県栃尾市(現長岡市)・見附市の繊維産業が70年代の石油ショックと日米貿易摩擦の後で激変し、その昔地方都市で栄華を極めた経営者たちの何人もが死を選んだ話を身近で聞いた。そのくらいの激変が自分が11年勤めた会社で実際に起きてみるとなんとも言えない気持ちがする。
1970年代の最後の年に大学を卒業したわたしが選んだのは電力会社だった。その頃いろいろな事情もあって早く社会人になって自立したいと思っていた。自分の生き方を探りながら大学に残る人たちもいたが、そういうリスクを取ってでもやりたいことが何なのか当時の自分にはわからなったのだと思う。実際に会社選びとなると明確なイメージがなかった。それでも石油ショックの後の世の中でエネルギーが重要なトピックになるかも知れないという思いはあったはずだ。「日本のエネルギーをリードする会社」というようなリクルートブック辺りのキャッチコピーに影響されたかも知れない。
別のブログで書いているが、学生生活の終わりと社会人生活のスタートはその頃の自分の状況に微妙な変化が生じた時期と重なっている。何やら拍子抜けした気持ちで始めた関東近郊での会社員生活が始まった。それでも3年の現場勤務が終わって東京本社に配属になると緊張感に満ちていて楽しかった。会社を選んだ頃の自分のように「エネルギーの未来」を考える同僚たちと出会ったこともありがたかった。この頃出会った人たちの数人が社内留学を考えていたこともその後の自分の生き方を変えることになった。
その頃の会社の仲間との勉強会で使った本の一冊がエイモリー・ロビンスの「Brittle Power (脆弱なパワー)」だった。1976年の「ソフト・エネルギー・パス」が世界中で読まれて名を知られた米のロビンスが1982年に発表した本で、米国のエネルギー供給構造の脆弱性を指摘するものだった。2001年9月11日の世界貿易センターへのテロ攻撃の後でそれを予見した本として再度脚光を浴びた本でもある。この本の一つの章の題名が「Forward Lemmings」だった。人間の欲望と消費行動をコントロールしないまま、増加し続けるエネルギー需要に見合うだけの供給力だけを確保しようとするエネルギ―政策とその危険性に警鐘を鳴らした本の中で、人間は破滅に向かうレミング(旅鼠)の集団に例えられていた。
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