2016年8月13日土曜日

フビライ汗と馬頭琴「スーホの白い馬」の思い出

1993年から2015年の夏まで働いた職場は発足当初はロシア・東欧の国々が活動の対象国だったが、2000年代後半になってモンゴルも対象国となった。バット君は職場で知り合ったモンゴルの人たちの一人だ。この人の本名はもっと長いが誰も発音できないので短い通称を使っていた。ある日彼のオフィスの前を通りかかった。通路と個室を仕切る壁はガラスなので中の様子が見えた。デスクの壁に飾ってある丸顔で威厳のあるアジア風ポスターが気になった。「今日は」と言って彼に話かけた。フビライ汗の肖像だった。モンゴルの話になった。わたしは作家開高健のモンゴル紀行などを読んでモンゴルに興味があるという話をした。バット君がおもむろに机の引き出しを開けた。「君がモンゴルを好きなのはうれしい。このCDも聴いてくれ」。馬頭琴の演奏CDだった。気持ちの良い音だったのでそれからしばらく聴き続けた。

2014年の夏に千石にあるモンゴル料理店シリンゴルを訪れた。高校同窓のフェースブック友だちと3人だった。モンゴル料理は初めてだったが、中央アジアに駐在して以来、羊肉は大好きだ。途中で馬頭琴の演奏があった。モンゴルの草原を馬が駆けているような軽快な曲と中国風のなんとも懐かしい感じの曲だった。軽快な曲はモンゴルの物語「スーホの白い馬」の音楽だった。大切なものと出会う喜びがあり、理不尽な形で別れがくる悲しみを歌うのは世界中で共通する感情だ。その次に客席から若い人が呼ばれて馬頭琴の弾き語りとなった。太い弦が低くふるえているような声が響いてきた。お坊さんたちの読経の声を思い出した。

蛇足になるが、「馬頭琴夜想曲」(木村威夫監督、2007年)という山口さよこ(小夜子から改名)さんが主演した映画があるそうだ。山口さんはこの映画の完成後の2007年の夏にご逝去された。この映画いつか見てみたい。

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