2016年5月29日日曜日

定家葛の話 男と女の間には深くて暗い川がある

この頃通りの垣根で見かける花がある。なんだか品のある花で気になっていた。夕方近所の大きなスーパーにビールを買いに行って玄関に店を出している花屋さんの前を通ると「ハニーサックル」という名札が付いていた。懐かしい気持ちがした。ウィリー・ネルソンという髭を伸ばした歌手が主演した「忍冬の花のように」という映画を名画座で観たことがある。学生時代の話だ。その時に原題に出てくる花の名前が「忍冬、スイカズラ」とあったので不思議な読み方だと思った記憶がある。厳しい冬を耐え忍ぶ花という名前も越後の雪国育ちには魅力的だ。

カズラというのは「蔓科の植物の総称」と辞書にある。スイカズラと同じように垣根で頻繁に見かけるのがテイカカズラである。この花は「スタージャスミン」によく似ているが、花が黄色が少しかかったほうがテイカカズラで、白いのがスタージャスミンだ。テイカカズラの名前は鎌倉時代の歌人、藤原定家に由来するという伝承を読んだ。歌人として名高い定家は同じく歌人としても名高い式子内親王に恋をする。皇族である親王とは身分違いなので、定家は叶わぬ恋に苦しんだらしい。親王は皇女としての生き方に従い斎宮として神様に仕えて生涯を全うする。やがて定家も老いて生涯を終える。身分違いとはいえどちらも貴人なのでそれぞれが葬られた墓所はさほど遠くなかったらしい。やがて定家の墓から蔓草が伸びて、内親王の墓に向かい、やがては覆い尽くした。それからこの花が「定家葛」と呼ばれるようになったという言い伝えだ。

どちらも通りで見かける花だと思っていたが、友人と3人で高尾山に登ったら野生の花が咲いていた。親王の墓所まで蔓を伸ばすという話も良いが、森閑とした奥山に運ばれた定家葛の種が花を咲かせ、親王を思う気持ちのままに蔓を伸ばし続ける。その気持ちは永遠に報いられることもなく風に舞うという話の方がしっくりくると思う。定家葛の高尾山バージョンにあまりに感動したので、日曜日のランチの場所に向かいながら以上の話をつれあいに語り聞かせた。さぞや感動してくれるだろうと思ったのである。つれあいの反応は「なんだか男目線の話だわね。男が女をいくら好きになったからって、相手がそれをうれしく思うなんて限らないわよ。おまけに死んだ後までお墓に絡みついてくるなんて、ウザイわね」。男と女の間には深くて暗い川がある。野坂昭如さんの名唱だ。合掌。
忍冬

定家葛


 

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