2015年4月15日水曜日

「屋根の上のバイオリン弾き」とアメリカに憧れていた頃の記憶

ミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」の主題歌「サンライズ、サンセット」は懐かしい歌だ。1971年のアメリカ映画のサントラ盤を叔父の家で観た記憶がある。高校2年生の時に東京で夏季講習を受けるために叔父の家に居候させてもらった時だから1973年の夏休みの話だ。叔父はニューヨーク駐在からその前の年に帰ってきている。叔父の居間でLPレコードのコレクションを眺めているとフランク・シナトラが何枚もあった。その時に見つけた「サンライズ、サンセット」はテレビなどで何度も聴いた。

小学校の終わりの頃に、石油会社に勤めていた叔父がニューヨークに赴任したのは、田舎の親戚一同にとって大きなニュースだった。祖父母は昔の人たちだから「生きて帰れるかどうか」を心配していただろう。親戚の多くにとっては、とにかく珍しい事件で皆が興奮していた。やがてニューヨークから何枚か絵葉書をもらってわくわくした。叔父の一家がフィラデルフィアに観光した時にお土産用にわざと茶色くした「独立宣言」の写しを送ってもらった記憶がある。その後自分が30歳近くなってアメリカに留学することになった時に、フィラデルフィアにあるペンシルベニアの大学院を選んだのも無意識に影響を受けていたのだろう。

そんな風に特別な思い出のある「サンライズ、サンセット」だが、ミュージカルも映画も観たことがなかったので物語の内容を知らなかった。先日、
ロンドンのDVDショップにあるのを見つけた。主題歌を聴いてみたくなって観ることにした。実際に観てみるとびっくりするくらい面白い物語だ。この物語の舞台がウクライナで、時代がロシア帝政末期で、シベリア送りの話が出て来るのだとは知らなかった。今は仕事の関係で旧ソ連圏である東欧や中央アジアに関わっている。これらの土地に住んだり、訪れたことがあるのでとりわけ感じるものがあった。

この物語の主人公で家長である乳牛飼いのテヴィエは家族を愛する優しい男だが、キリスト教徒たちの住む地域の中に、ユダヤ人居住区を作り、自分たちの伝統としきたり(tradition)は厳格に守りながら生きている。その主人公に次々と新たな時代を象徴するような難題が降りかかる。最初の事件である長女の結婚は、親が決める結婚というしきたりへの挑戦だった。次の事件である二女の結婚は、ユダヤ人居住区のコミュニティの枠を越えての相手選びがチャレンジだ。最後の三女の結婚では、ユダヤ教徒の枠を越えての相手選びがチャレンジだった。家族を愛し、伝統を尊ぶ主人公に、三人の娘たちが次々と新しい生き方を提示するところが面白い。

このユダヤ人たちの物語が人々の心に訴えるのはロシア・東欧でのユダヤ人排斥の歴史に基つくものだからだろう。この映画では長女の結婚式でユダヤ人の村人が集まっている時に、地元の役人に組織された異教徒集団が襲撃してくる場面が出てくる。東欧やロシアに住んでいたユダヤ人居住区に対して組織的に行われた排斥のための暴力行為は「ポグロム」と呼ばれる。虐殺につながったケースもあるようだ。迫害を避けるために地元社会と同化して生きるのか?迫害も追放も恐れずに自分たちの伝統を守って生きるのか?迫害を逃れて新天地へと旅立つのか? 難しい選択だったはずだ。この映画の終わりでは、村の人々はニューヨーク、欧州各地、エルサレムへと散らばるように移住を余儀なくされる。この物語の主題歌のもの悲しさの理由をこれまで知らなかった。


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